ランクル70にディーゼルエンジンが搭載されると何が良いのか?

まえおき


2023年秋頃に再再販されると話題のランクル70はどうやらファン待望のディーゼルエンジンになるようだ。

群馬パーツショー会場プラド&ハイラックス
左が150系プラド。右はハイラックス。

プラドに搭載されている2.8Lのクリーンディーゼルエンジン(1GD)が有力。

大排気量の1HZ(丸目ランクル70)、1VD(オーストラリア仕様)などに比べれば残念との見方もある。

しかし、贅沢を言えばキリがない。

現時点でトヨタが見出した最適解なら素人がどうのこうの言っても仕方ない。

というわけで、今回はランクル70ファンが何故これ程ディーゼルエンジンに期待するのか?について。

ド素人が、良いの悪いのと書けばマナー無用の辛辣な苦言必至でダルい気持ちになる。

しかし、世間一般ではディーゼルエンジンってガソリンエンジンと何が違うの?みたいな人が多数派だと思われる。

素朴に「なぜ」これほどランクル70ファンがディーゼルエンジンを望むのかをか理解すべく調べてみた。

ディーゼルエンジンのメリット・デメリット


一般的に言われるディーゼルエンジンのメリット・デメリットをまとめると以下のようになった。

メリット ①低速時の強い力(トルク)
②燃費が良い
③耐久性が高い
④燃料(軽油)が安い
デメリット


①高回転が苦手
②音・振動が大きい
③高額
④排ガスが環境に優しくない
⑤メンテナンス費用が高い
⑥チョイ乗りメインに不向き

以下、それぞれのメリット、デメリットについて少し深堀してみる。

メリット①低速時の高トルク


ランクル70ファンの一部が熱狂的にディーゼルを支持する理由で最もよく聞くのはこれ。

数値でディーゼルの優位性を確認すべく丸目ランクル70(1HZディーゼルエンジン)と再販ランクル70(1GRガソリンエンジン)の諸元を比較すると以下のとおり。

最大出力(ネット)kW(PS)/r.p.m 最大トルク(ネット)N・m(kgf・m)/r.p.m 
丸目ランクル70(デ) 96(130)/3,800 284(29.0)/2,200
再販ランクル70(ガ)
170(231)/5,200 360(36.7)/3,800

最大出力、トルクいずれも再販ランクル70のガソリンエンジン(1GR)が上回る。

しかし、ここで注目すべきはそこではない。

丸目ランクル70(1HZ)のディーゼルエンジンが最大値を出す回転数(r.p.m)の低さこそが、真骨頂。

この違いは燃料の燃焼方法に由来する。

ディーゼルエンジンもガソリンエンジンも燃料(ガソリン又は軽油)の爆発した力を動力(回転)に変えて動く点では同じ。

しかし、燃料を爆発させるプロセスが以下のとおり異なる。

ガソリンエンジン 空気と燃料をシリンダー内で圧縮し、スパークプラグの火花で着火
ディーゼルエンジン シリンダー内の圧縮した空気に燃料(軽油)を吹きかけて自然着火

ディーゼルエンジンの方が(自然着火させるために)燃料の圧縮率が高い。

その結果、爆発時のエネルギーもガソリンエンジンよりも大きくなる。

低回転・低速で大きな力を出せるため、以下の場面などでディーゼルエンジンが有効となる。

  • オフロードでゆっくりジワジワと凸凹を乗り越える。
  • 重たい荷物を積載したトラックの始動
  • 水の抵抗で常に大きな力が必要な船舶

メリット②燃費


ディーゼルエンジンの燃料となる「軽油」は着火性が良く、ガソリンエンジンより燃費が良いという特長があるそうだ。

燃料の本来持つエネルギーを、エンジンの出力に変換する効率の違いらしい。

ガソリンエンジンは燃料の持つ力100に対し30(%)程度であるのに対し、ディーゼルエンジンは40%程度と高いのだとか。

参考にガソリンエンジンとクリーンディーゼルエンジンをラインナップする150系プラド(TX5人乗り)の燃費データは、以下のとおり。

ディーゼルエンジン(1GD) 11.8km/L
ガソリンエンジン(2TR) 9.0km/L

ディーゼルエンジンの方が約31%も燃費が良い結果となっている。

重量など、車体の条件も異なるため単純にエンジンの差とは言えないが、大きな差がある事は窺える。

メリット③耐久性


ディーゼルエンジンは耐久性が高いといわれることも多い。

確かに、重量も重たく、大きいから、耐久性があると言われると、いかにも説得力がありそう。

しかし、実はそう単純でもない。

ディーゼルエンジンは、その高い圧縮率に耐え得る構造(壁厚、機密性など)が求められる。

その結果、ガソリンエンジンよりも重厚な構造となる(ならざるを得ない)だけのこと。

耐久性は基本的にはエンジンの設計者による「壊れない期間」の設定の問題。

同じ期間使うことを目標とすれば、ガソリンエンジンよりディーゼルエンジンのほうが重厚で高コストになる。

逆に言えば、ガソリンエンジンの耐久性を上げたければ、費用をかけて重厚な構造にすればいいだけ。

したがって、耐久性の違いはディーゼルエンジンであることに由来するものではないと言える。

メリットに挙げるための表現をするとしたら、一般的にディーゼルエンジンはその用途(貨物・商用)から、乗用車に多く用いられるガソリンエンジンよりも長期間使える(高耐久)ように設計されることが多い、ということかもしれない。

メリット④燃料(軽油)が安い


ディーゼルエンジンの燃料である軽油は、レギュラーガソリンより約20円/L(約15%)安い。

ハイオクガソリンよりは約30円/L(約20%)も安い。

このレギュラーガソリンと軽油の価格差はほぼ税金の差。(税額は記事記載時点のもの。)

ガソリン税 揮発油税 48円60銭/L
地方揮発油税 5円20銭/L
合計 (A)53円80銭/L
軽油取引税 (B)32円10銭/L
差額 (A)-(B) 32円10銭/L

ヨーロッパなどでは、ガソリンと軽油がほぼ同額といった国も多いそう。

モノ自体の価値に由来する価格差ではない。

税金は苦労なく取れるところから取るのが常。

世の中の状況が変われれば(例:第三のビールの増税)税体系が一変する可能性はある。

しかし、現時点の日本では軽油を使用する面ではディーゼルエンジンが大きなメリットを持つことは間違いない。

デメリット①高回転が苦手


ディーゼルエンジンは低速鬼トルクが魅力の一方で高回転が苦手と言われる。

その理由は、燃焼速度(シリンダーのなかで燃料が燃える速さ)がガソリンよりも遅いためらしい。

そのほかにも「高圧縮する必要があるので時間がかかる」とか、「高圧縮に耐えるためにピストンも重厚化するので早く動かせない」などといった情報があった。

いずれにせよ、高回転が苦手であることは疑う余地がなさそう。

ただ、「高回転が苦手」であることが車の運転に具体的にどんな悪影響を及ぼすかは正直なところ、調べてもよく分からなかった。

「高回転が苦手」=「高速走行が苦手」なのかとも思ったが、3000回転位で100km前後の巡航が問題なくできるなら、特段の不都合はない気がする。

単に、高回転にする必要がないから、その性能がないだけのような・・・

敢えてデメリット感を強調するなら、アウトバーンで200km出して高速走行しようと思ったら、昔ながらのディーゼルエンジンでは辛いとか??

デメリット②音・振動が大きい


ディーゼルエンジンといえば特徴的なガラガラ音と、振動はよく知られるところ。

その原因は、上にも書いた、燃焼方式の違いからくるもの。

ディーゼルエンジンは高圧縮した状態で爆発を起こすので、多いな力(トルク)を生み出すのと引き換えに、大きな音と振動も生じてしまう。

今どきのクリーンディーゼルエンジンを搭載したハイラックスやプラドに乗ると、鈍感な自分ならガソリン車との違いは殆ど気ににならない。

新型ハイラックスピックアップ試乗

新型ハイラックスピックアップ試乗

おそらくディーゼル規制前のディーゼルエンジンよりは改善されているが、耳をすませばガラガラ音はあるし、独特の振動もないではない。

まぁ、こうデメリットと書くと「その音・振動がランクル70の~」と始まる人もいそう。

しかし、デフォルトを「静かなガソリン車や電気自動車」に置けば、ディーゼルエンジンのデメリットだろう。

デメリット③高額


ディーゼルエンジン搭載車は価格が高い。

ガソリンエンジンとディーゼルエンジン両方の設定がある車種を例にすればそれは明らか。

例えば、150プラドTX5人乗りの例では、70万円近い差額となっている。(車両本体価格・消費税込)

ディーゼル(1GD) 4,330,000 円
ガソリンエンジン(2TR) 3,676,000 円
価格差 654,000円

この理由は、ディーゼルエンジンは高圧縮比に耐える強度と機密性が必要で、(同程度の期間使えるように作ると)製造コストがガソリンエンジンに比較して高額となるためらしい。

ディーゼルエンジンのメリットを享受する対価だから、別にデメリットではない(コスパが悪いわけでもない)と言う人はそれで良し。

少しでも安く車を買いたいという観点からすれば、絶対額が高くなるという一事をもってデメリット、と評価できないこともないか。

デメリット④排ガスが環境に優しくない


イメージです。これがディーゼルかどうかは存じ上げません。

平成生まれ以降世代はイメージがないかもしれないが、昭和世代ならディーゼルエンジンと言えば灰色の煙モクモクというイメージがあるはず。

これに含まれていた窒素化合物(NOX)、粒子状物質(PM)が環境や健康に悪影響を与えることが懸念されるようになった。

そして、見るからに環境にも健康にも悪そうな黒いススらしきものをペットボトルに入れてシャカシャカしながらディーゼル規制を打ち出す石原都知事が登場した。

その後の規制によって東京の空は星が見えるようになったとタクシードライバーから聞いたこともある。

実際に環境に良い影響を与えたのは事実なのだろう。

しかし、その陰で悲しい憂き目にあったのはランクル70などのディーゼル車。

2001年6月NOx・PM法制定以降、地方自治体が順次ディーゼル車規制条例を制定、東京、埼玉、神奈川、千葉、愛知、兵庫、大阪ではディーゼル車の登録、乗り入れが制限されてしまった。

そして、2004年にはついにランクル70の国内販売が終了。

その後、自動車メーカーの創意工夫でDPFによりNOX・PMを除去する技術が搭載されたクリーンディーゼルエンジン車が開発され、このデメリットは解消されるに至っている。

ここでは、(国内でも地方部では引き続き使用されている)従来通りのクリーンじゃないディーゼルエンジンに限ればデメリットとして存在するという意味になる。

デメリット⑤メンテナンス費用が高い


ディーゼルエンジンはその仕組み上、重厚な作りで製造コストが高くなる。

単純な話、高いものが壊れれば、直すのも高くつく。

また、ディーゼルエンジンの燃料噴射機構は複雑で、故障すると修理費用が高額にもなるらしい。

さらに、クリーンディーゼルエンジンともなると、定期的なアドブルー(尿素水)補充費用も掛かる。

150プラドのアドブルーは満タンで12L。

ネット検索したところディーラーで260円/Lで補充したとの情報(2021年のもの)があったので、それを参考にすると、満タン補充で3000円程度。

下の取扱説明書によればアドブルー1Lを700km程度で消費する(満タンで8000km程度走行可能)。

ザックリ計算すると0.37円/L・km程度だ。

150プラドの取り扱い説明書より

金額的には目くじら立てる水準ではないが、定期的に、しかもどこにでもあるわけではないアドブルーを補充しなければならないのは望ましくはない。

ほかにもDPFの不具合も起こることがあるらしい。(トヨタのカイゼン力に期待)

重厚・複雑な構造故に故障・不具合が発生した場合にはガソリンエンジンと比べてメンテナンス費用がかかる。

クリーンディーゼルエンジンはさらに手間・費用がかかる。

やはりこの点はデメリットなのだろう。

デメリット⑥チョイ乗りに不向き


これはガソリン車でも全く無関係ではないらしいが、特にクリーンディーゼル車はチョイ乗りを繰り返す使い方には不向きらしい。

チョイ乗りでは、エンジンが高温になり切らず、燃料の燃焼時に生じるススが多くなる。

そして、排出ガス浄化装置内のフィルターにススが一定量堆積すると、自動的にススを燃焼(再生)処理することが必要になる。

この再生処理には10~30分掛かる。

高速走行していれば排気ガスの温度が高いため短い時間で終わるが、渋滞中などは温度が上がらず30分くらい掛かってしまうのだとか。

150プラドの取扱説明書には5ページにわたってこの再生処理についての説明がある。

ちょっとメンド臭い感じがしてしまうので、デメリット認定。

まとめ


以上のように、待望のディーゼルエンジンとは言っても、メリットも、デメリットもある。

だからガソリンエンジンあり、電気モーターありなのだから、当たり前と言えば当たり前だ。

燃費が良く、燃料が安いとアピールしても、ガソリン仕様より70万円も高くてメンテナンスコストが高いのなら、必ずしも経済優位性があるともいえない。

150プラドの例でみれば、ガソリン150円/L、軽油130円/L(価格差20円/L)、燃費差2.8km/Lという条件で価格差70万円を回収することを考えてみると、約13万キロ走行しなければいけない。

年間10000キロ走るユーザーには長い道のりだし、その間、乗り始めの条件が維持される保証もない。

また、重厚な作りで耐久性が高いと言っても、高負荷な燃焼方式故のもので、想定する耐用年数に対してオーバースペックに作られているというのとは話が違う。

音と振動が好き、と強弁するのを止めはしないが、一般論として静かで振動がないほうが快適なのは否定しがたい事実。

こうして凸凹を眺める限りは、なぜそれほどまでにディーゼルエンジンを望む?となる。

もちろんディーゼルエンジンが万能ではない。

しかし、ランドクルーザーファミリーの中でヘビーデューティーラインを代表するランクル70。

過酷なオフロードを力強く走るためには、ディーゼルエンジンならではの低速鬼トルクがキモ。

そう熱心に信じるファンが多いからなのだろう。

「ランクル70にディーゼルエンジンが搭載されると何が良いのか?」への6件のフィードバック

  1. ディーゼルのデメリットとして
    もう一つ挙げるとしたら「暖房の効きが悪い」
    じゃないでしょうか。効率が高い事による影響です。ディーゼル買うなら寒冷地仕様、ビスカスヒーターは必須でつけるといいと思います

    1. screamさん
      コメントありがとうございます。
      しりませんでした、そんな特徴があるとは。
      勉強になりました。

  2. ちょっと前なら70ヘビー系にはありえない組み合わせと思われたであろう、たった(?)2.8Lのディーゼルが、相応しい信頼性や低速トルクを実現しているのかどうか、非常に気になります。
    日本専売か、海外展開されるのか?もしされるとしても、IHZがいまだ現役で活躍するような僻地向け、過載が当たり前みたいなワークホースの心臓としては厳しいのかな・・・70系のなかでも比較的ライト系の位置付けになるのではないかと予想します。

    ATのみと言われていますが、トルコンのおかげで低速トルクの細さをカバーできる利点がありますね。初代プラドが2.4Lの2L-TEで登場した際、ATでは望外にキビキビ走る一方、MTではトルクがなくて扱いにくいと、当時の4×4MAGAZINEなんかで評されていました。
    技術の進化で、当時とは比較にならない性能を得ているかと思いますが・・・MT同士での比較をさせてみたい気がします。

    1. まるさん
      コメントありがとうございます!
      新型ジムニーシエラでもオートマの方がクロカンで使えると聞いた事もあります。(ニワカなので違うかもしれませんが)
      エンジンとミッションの組合せ次第で一概にMTが良いとは言えないようですね。
      価格情報を入手した感じでは1GDっぽい感じ。果たしてATのみか、MTも出るか、楽しみですねー

  3. こんにちは。ランクルはHZJ70、GRJ76乗りです。
    他にディーゼルはゴルフ1,2,3、ランドローバーディスカバリー1のディーゼルエンジン信奉者でした。
    でも実際には自分の乗り方を考えますと、ディーゼルのメリットって経済性しかないんじゃないかと思います。
    確かにGRJはかなりエンストしやすいエンジンですが、そのエンジン音、加速のスムーズさというのはディーゼルとはかなり違うと思っております。自宅近くにプラド2.8、1GD乗りの方がいますけど、音うるさいです。
    GRJはやはり燃費の悪さが痛いところですけど、MTの面白さもありますしね。1ナンバーでランクル300と同じディーゼルエンジンなら納得というところもあるかもしれませんね、ランクル70を名乗るんであれば。
    でも、今新車で選べるとなればディーゼルのATになってしまうかもしれませんね。実際は愛着もあるし、燃費以外の不満もなくお金もないので、GRJ76のまま大事に乗ろうかなと思っています。

    1. khikoさん
      コメントありがとうございます。レス遅くなり失礼しました。
      ガソリン、ディーゼル両方なり比べられた上での感想、とても参考になります。
      HZJ・GRJ両方持ってる方なら、ノンビリ構えていて良さそうな感じですねぇ、羨ましいです!

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